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ぽちゃ、色白、黒髪のストレートロングヘア、お胸はGカップ、眼鏡をしています。真面目そうな感じだって良く言われます。
声は美人かも♪
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「最初、君が泣いているなんて全く気付かなかったんです。映画に夢中になっていたせいもあってね。」 男性がワインで奢った口をチェイサーで潤します。
「でも、母親が息子の元を去るシーンで私の視界にはいった君の視線がね、まっすぐ画面を見ている人のものじゃないことに気付いてしまったんだ。それで気になって見つめていたら、君はいまと同じ様に、綺麗なままで泣いていた。」 その手の中のグラスをテーブルに戻す事なく、男性は話を続けました。
「はらはらと・・・花が散る様に落ちる涙を、私ははじめて見るような気がする。声も無く、でも涙が止まらないなんて、この女性はどれだけ哀しみを抑え込んでいたのだろうと思うと眼を離せなくなった。」
自分でもわからない気持ちを、目の前の初対面の男性に言葉に変換されることにわたくしは戸惑いと、安らぎを感じはじめていたのです。
「もっと若かったなら、もっと愚かだったなら、君はこんなに哀しまずに済んだだろう。取り乱し・相手の女性を・裏切った男性を罵倒して、今頃はもう遥か過去のことのように今夜の出来事にも対処できていたと思うよ。」
はらり・・・ その言葉にわたくしの眦からはまた涙が溢れ出したのです。
「今夜の映画の若いヒロインのように、私を打ってみないか?」
「えっ」 チェイサーのグラスを置いた男性の突然の申し出に、わたくしは思わず聞き返してしまったのです。
「憶えてないか? 息子のために母親が置いて行った若い恋人。その彼女は息子に乞われるままに、彼の母親に教えられたサディスティックな行為を幼なじみの給仕の男の子に加えるシーンだ。」 憶えていました。華奢で聡明そうな金髪の女性が、去って行った母親の正体を知ろうとする愛しはじめた男性の要求に応えて、幼なじみを拘束し・・・二つ折りにした革ベルトで打ち据えるシーンのことです。
「もう、時間を逆行させることはできない。後悔も君には似合わない。だから、今夜ここで哀しみを全て吐出してゆきなさい。」
ソファーから立ち上がった男性は、ベッドの上に置いた彼のバッグから黒革の房鞭とシルクのスカーフを取り出したのです。
「打ち方は知っているね。自分で打ったことはなくても、打たれたことはあるはずだ。」 房鞭を、男性はわたくしの膝の上に置いたのです。
「今日の映画を見ている君の表情でわかったよ。ノーマルな通り一遍の行為しかしらない人間にはあの映画は過激すぎるし、本当の意味も解りはしない。」 ブラウンのストライプが走るシャツのカフスの釦を男性は外しはじめたのです。
「涙を流しながら、スクリーンを見つめる君の表情と、先ほどまでの話で私は確信した。君は、こちらの世界の住人だ。」 シャツの第二釦に手が掛かりました。わたくしをみつめたまま、順に釦を外してゆきます。開いた胸元は、滑らかな・・・男性の肌でした。
「気が済むまで、私を打ってごらん。さぁ」 シャツを座ってらしたソファーの上に置かれると、男性はそれをベッドの足元へと押しやりました。
続いて、飲み物とわずかに残ったお食事の乗ったテーブルも。東京湾の夜景を切り取ったような大きな窓の前には、わたくしの手元にある鞭を振るうための広い空間が確保されてゆきました。
「ワインが味わい深くなりますね。」 男性の眼を見つめて、彼と同じものを口にしてみました。
映画のお話は、興味深く楽しかったのですが・・・同時に、わたくしの目の前に寄り添っていたあの方と奥様の残像をフラッシュバックさせていたからです。
瞬間的に襲っては消える心の痛みから逃れたくて、男性の映画論をワインへと意識的に逸らそうと試みました。
「ワインのセレクトはあなたが?」
「いえ、ソムリエに任せました。白で、この料理に合うものをって言ってね。フランスの白だそうですよ。」 なるほど、たしかにこのしっかりしたボディはフランスワインならではの特徴かもしれません。
「気に入ってくれましたか?」
「はい。こんなにしっかりした白は久しぶりです。」
「よかった。私もワインは好きですが、もっぱら赤なのでね、白には疎いんです。」
「でしたら・・・そう言って下さったら赤でもお付き合いしましたのに。」
男性でワインをお食事と一緒ではなくこんな風に楽しまれる方を、わたくしはあまり多く知りません。好きなお酒を聞かれた時、てっきりこの方はウイスキーかスピリッツでも召し上がるものだと思っていたのです。
「君が白ワインを選んだのには訳があるのだろう。今夜は君のために過ごすって決めているからね、構わないよ。こうでもなければ白ワインをじっくり楽しむこともないから、いい機会だよ。」 笑って2杯目のグラスを干されるのです。
シルバーのワインクーラーに手を伸ばして、男性にワインをお注ぎしようとしました。
「大丈夫だよ。ゆっくり飲んでいてください。」 わたくしを制して男性がナフキンを取り上げます。先ほどと同じに優雅な仕草でご自分と、わたくしのグラスにワインを注ぎます。
「今夜の訳を聞いてあげた方がいいのかな。それともこのまま関係のない話をして気を紛らわせるほうがいい?」 ソファに腰を下ろされるなり、わたくしの眼をみてそうおっしゃったのです。
わたくしは、すぐには答える事ができませんでした。
目の前の満たされたグラスを手に、ワインを頂くのには無作法なことなのですが・・・一気にグラスの中身を飲み干したのです。
このまま過ごしても、あのフラッシュバックはこれから先わたくしを苛むことでしょう。それなら、この男性が聞いてくださるなら・・・いま解決してしまうほうがきっといい・・・そう思えたのです。
「聞いていただけますか?」 テーブルに戻したグラスに4杯目のワインが注がれる時には、わたくしはもう心を決めていました。
以前愛して・裏切られた男性が偶然にあの映画館にいらしたこと。
隣に座ってらした女性は恐らくわたくしを捨てて娶られた奥様であること。
その方と出逢ったいきさつと、その方をどんな風に愛していたかということ。
その方にどんな風に愛されたかということも。
わたくしは、時にグラスを口元に運びながら淡々とお話を続けました。
もう枯れてしまったと思った涙が、また溢れ出し・・・ひとすじ・ふたすじ・・・頬をつたいました。
それでも涙を拭う事なく話し続けるわたくしに、男性は軽く相づちを打って先を促してくださったのです。
映画を見はじめてからもう3時間以上・・・化粧室へはいってなかったのですから。
お酒をいただきはじめてから席を立つ事がないように、わたくしは用を足していくことにしたのです。
「ゃぁっ・・・」 黒のレースに縁取られた藤色のサテンのTバックは、クロッチが・・・濡れた様になっておりました。誰に見られている訳でもないのに・・・わたくしは真っ赤になり・・・手近のペーパーでそのぬめりを帯びた部分を一生懸命に拭おうとしたのです。
こんな風になる心当たりは・・・一つしかありませんでした。わたくしがかつて愛した方の姿を見たせいです。
あれほどに手痛い裏切りを受けても、この身体はまだあの方を愛している、そう思った途端に新たな悲しみが押し寄せてきたのです。
ピンポン・・・ わたくしの涙を止めたのは、ドア越しに聞こえたルームサービスの押すドアホンの音でした。
ビデを使い、わたくしの身体に残っていたはしたない痕跡を洗い流してから部屋へと戻ったのです。
「私も白ワインをいただくことにしました。」 窓際の一人掛けソファーに座った男性は、ルームサービスのスタッフが抜栓するのを待っていらっしゃるところでした。
「お待たせして申し訳ありません。」 向かい合わせのソファーに座ります。二人の間のテーブルの上には、生ハム・チーズ・オリーブにドライフルーツが程よく盛り合わせられたオードブルプレートが用意されていました。
「テイスティングはいかがしましょう。」
「私がしよう。」 男性がグラスを眼顔で示します。
コッック・・コッック・・・ ほのかに黄色味を帯びた美しい液体がほんの少しだけ注がれます。迷いなくステムを持つと、男性は唇から舌に・・・ゆっくりとワインを流し込みました。
「おいしいよ。ありがとう。」 男性のその声に一礼すると、スタッフはわたくしに・・・そして男性のグラスにもワインを満たして、シルバーのアイスペールにボトルを入れナフキンで覆いました。
「サインをお願いします。」 すらすらと慣れた様子で男性はサインをします。
「召し上がられたものはこのままになさっておいてください。」
「ありがとう。」「遅くに申し訳ありません。」 改めて礼をして出てゆくスタッフの後ろ姿を二人で見送ったのです。
「それじゃ、改めて。はじめまして。」「ふふふ、そうでしたね。」 わたくしたちは軽くワイングラスを合わせました。
「泣くとお腹が空くでしょう。」 男性が優しくナフキンを差し出します。
「ええ、そうですね。遠慮なくいただきますわ。」 男性が取り分けてくださったお皿を頂戴し、ナチュラルなままのオリーブを口にしました。滋味のあるまぁるく柔らかい塩味が・・・さきほどまでのわたくしの涙のようでもありました。
二人の会話は、テーブルの上のお料理とワインと・・・映画の感想の間を行き来していました。
ことに、この男性のジョルジュ・バタイユに対する見識の深さや、ご一緒に見た映画の監督が手がけられた別の作品・・・についてのことも、興味深く耳を傾けるに値するものでした。
わたくしはさしてフランス映画に造詣が深い訳ではなかったので、登場人物が身に纏っていたドレスのお話をさせていただいたのです。
バレンシアガ・・・ディオール。綺羅星のごときメゾンが作り出す・・・ぎりぎりまで肌を露出し・覆い隠す・・・セクシュアルな夜の服のお話は男性の興味を惹いた様でした。
「あの服ってランジェリーは着けないものなの?」 そんな、日本の男性ならではの質問にお答えするのも楽しかったのです。
エレベーターホールを出て左に・・・まっすぐ進んで彼が立ち止まったのは1903と書かれた扉の前でした。
「どうぞ」 男性は何のためらいもなく手の中のカードキーをスリットに差し入れると、開いたドアを押えてわたくしを先に室内へ入れてくださったのです。
「きれいね。」 落とされたままの室内の照明の中で、窓を額縁にレースのカーテン越しに東京湾の夜景が一望できました。青海の観覧車、レインボウブリッジ、晴美埠頭・・・。
わたくしはバッグを手にしたまま窓際に歩み寄っていたのです。
「間に合ったね。」 落ち着いた声で言うと、ひと呼吸置いて男性はドア近くのルームライトのスイッチをONしたのです。
「たしか終電を過ぎると観覧車は照明を落とすらしいから、この景色を見てもらえてよかったです。」 年甲斐もなくはしゃいでしまったわたくしを諌めるでもなく、男性は手に持ったバッグを窓よりのベッドの上に置くとクローゼットの足許に用意されていたルームシューズに履き替えにいらしてました。
「お酒は何がいいですか? ルームサービスが来る間に良かったらシャワーを浴びてきてもいいですよ。」 バスルーム側のベッドにバッグを置いたわたくしに、ルームサービスのメニューを差し出します。
今夜は・・・酷く酔ってしまいたい気持ちと、悪酔いするわけにいかないと思う気持ちがせめぎあっておりました。
ただひとつだけ、お別れしたあの方と一緒にいただいたことのあるお酒だけは・・・見ることさえ辛かったのです。カクテルとバーボンの欄を無視して・・・。
「あれば、グラスかハーフボトルで白ワインをいただけますか。流石に、フルボトルいただく元気はなくて。それとチェイサーを。」
「わかりました。おつまみに好き嫌いはある?食事は?」
「いいえ、お任せします。お夕食は軽く済ませております。お気遣いありがとうございます。」
「それじゃ、オーダーしておくからシャワーでも浴びてらっしゃい。」
「いえ、シャワーまではまだ。ただ、顔を・・・。」 わたくしは藤色のニットジャケットをハンガーに掛けると、バッグの中から小さなポーチだけを取り出してバスルームに向かったのです。
男性がかけたのでしょう。いつのまにかシャンソンのBGMが流れておりました。バスルームにもスピーカーが仕掛けられているようです。エコーの効く広い空間に・・・心地よい音量で女性シンガーの柔らかなフランス語が聞こえます。
先ほどまで見ていた映画のヒロインが、息子に禁断の愛を語りかけるようなそんな幽かな淫らさを含んだハスキーボイスでした。
鏡の中のわたくしの眼は、赤く腫れたようになっておりました。
ポーチの中の髪ゴムでロングヘアを一つにまとめると、眼鏡を外しました。
洗面所に冷たい水を溜めて・・・涙の痕の残る頬も・・・強く噛み締めて血がにじみかけた唇も・・・全てを洗い流したのです。
わたくしは、全くメイクアップをいたしません。そのことを、今日ほどよかったと思ったことはありませんでした。
もしメイクをしていれば・・・涙を流した跡は流れ落ちたファンデーションや黒く溶けたマスカラでもっと見苦しくなっていたことでしょう。
わたくしはハンドタオルを冷たい水で絞ると、バスタブの縁に腰をかけて両目に強くそのタオルを押し当てたのです。
3度ほど、瞼の熱で温まったタオルを水で冷やすことを繰り返すうちに・・・腫れも収まってきたのです。
わたくしはポーチから、化粧水を取り出して薄く素肌の上に伸ばしたのです。
「これで少しはましになったわね。」 このあと、涙を止めたままでいることができるかどうかは自信がありませんでした。少なくとも、わたくしのためにこの場所と時間を用意してくださった男性に、他の方のために流した涙の痕をできるだけ拭ってからお酒をご一緒したかっただけでした。
「ナカハタだが、これから伺いたいのだけれどツインは用意できるかな。」 ホテルのフロントへ・・・でしょうか。
「ナカハタミチアキだ。そう。」 すれ違うヘッドライトに浮かぶまなざしはやさしくわたくしを見つめたままでした。
「海側でたのむ。そうあと5分ほどで着くから。よろしく。」 ナカハタさんと電話で名乗られた男性はタクシーの運転手にホテルの名前を言うと、わたくしに向き合ったのです。
「あの・・・」
「君のことだ、そのままで人目のあるバーなんかに行きたくはないでしょう。部屋でルームサービスでもとって、ゆっくりとしましょう。大丈夫、君のいやがることはしませんから。」 男性はわたくしの手に触れることも・・・わたくしの名を尋ねることすらしませんでした。
わたくしが、小さく頷き返したころ・・・タクシーはホテルの車寄せに到着したのです。
「ここで待っていてください。」 程よく照明の落とされたロビーのソファーにわたくしを座らせると、男性はお一人でフロントに向かわれました。
もう・・・0時まで何分もなかったことでしょう。
わたくしもようやく涙を抑えることができるようになっていました。
ナイトシフトのスタッフが行き交う都内の一流ホテルのロビーは、昼やディナー時の活気とは無縁なひっそりとした空間でした。隣接するラウンジでは、ジャズピアノの生演奏をしているのでしょうか。人の声特有のざわめきを越えてメロディアスな音の連なりがわたくしの耳元まで流れてきたのです。
「部屋ではなく、ラウンジで飲みますか?」 ベルボーイの案内を断って、男性はわたくしの前にいらっしゃいました。ピアノの音に気を取られていたところをご覧になられていたのでしょうか。
「いいえ。酷い顔をしていますでしょう。あなたに恥をかかせてしまうわ。お言葉に甘えて、お部屋で頂戴します。」 まだ・・・・口元だけに笑みの形をつくるのが精一杯でした。わたくしの言葉に頷いた男性に促されて、正面に見えるエレベーターホールへと向かったのです。
先ほど男性に声を掛けてらしたベルボーイが、エレベーターを呼んでいてくださったようです。
二人とも明らかに仕事帰りの・・・どう考えても宿泊の準備などなにもしていない様子だったはずです。なのに、このホテルのお行儀のよいスタッフはほんの少しの怪訝さも見せず遠来のお客様と同じ応対をしてくださいます。一流ホテルならではの、心地よい慇懃さにわたくしは改めて感心しておりました。
「ありがとう。」 ごゆっくりお過ごしください、そういって礼を取るベルボーイの姿がエレベーターのドアの向こうに消えてゆきました。
「君は綺麗ですよ。」 コンソールパネルに向かい19階の釦を押しながら男性はぽつりとそう仰ったのです。
「ん?」 わたくしはとっさになにを仰っているのかがわからなくて、隣の男性の横顔を見やったのです。
誰も乗り込んでくることなどほとんどない深夜のエレベーターの中。いままでご一緒したことのある他の方達は、まるで部屋にゆくまでの短い時間も我慢出来ないと言う様に、わたくしに手を伸ばしてらっしゃいました。
でも、この方は違ったのです。
わたくしの横に並んだまま、エレベーターのドアにまっすぐ向き合ったまま、わたくしの手を取る事すらなくすっと立っていらっしゃるのです。
短い問いかけは彼の耳には届かなかったのでしょうか。何のお答えもいただけないままに、エレベーターは19階へ到着したのです。